映画『善き人のためのソナタ』を紹介

映画

2006年公開の映画『善き人のためのソナタ』を紹介します。

『善き人のためのソナタ』は第79回アカデミー賞外国語映画賞を受賞しているドイツの映画です。フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督の初の長編映画作品です。この映画、とにかく暗くて悲劇的な物語で、息が詰まりそうな閉塞感に満ちているんですが、表現の自由というものを考えさせられる良い映画なので、是非、観てほしい一本です。

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あらすじ

まずあらすじの紹介から。1984年の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)のヴィースラー大尉は国家に忠誠を誓い、真面目に働く局員だった。ある日彼は、反体制の疑いのある劇作家ドライマンとその同棲相手の舞台女優クリスタの監視の任務に就く。ドライマンのアパートには盗聴器が仕掛けられ、ヴィースラーは24時間、アパートでのドライマンの言動を徹底的に監視する。しかし、ヴィースラーは芸術家たちの生活を盗聴するなかで、次第にドライマンへ感情移入し始める。やがて彼はドライマンとクリスタを守る立場へと変わっていく。

秘密警察シュタージ

この物語の鍵となるのは東ドイツの秘密警察、シュタージですね。ベルリンの壁崩壊以前の東ドイツは社会主義国家で、社会主義統一党という政党が主導権を握り、言論の自由、表現の自由は制限されていました。政府を批判するような言動は許されず、反体制的であると見られる国民はシュタージ、つまり国家保安省により監視されていました。またシュタージは、正規の職員だけでなく、非公式協力者と呼ばれる一般市民を多数利用し、国民同士の相互監視ネットワークを作り上げていました。

主人公であるシュタージの局員、ヴィースラーを演じるのはウルリッヒ・ミューエですが、彼自身、東ドイツの出身で、当時の妻がシュタージの非公式協力者としてミューエを監視していました。脚本と監督は当時33歳のフロリアン・ヘンケルス・フォン・ドナースマルクが務めました。ドナースマルク監督は西ドイツの出身ですが、文献を読んだり、旧東ドイツのシュタージ関係者にインタビューしたり、史跡を訪れたりするなど徹底した調査をした上で脚本を完成させました。また実際に国家保安省の旧本庁舎を使って撮影するなど、当時の東ドイツの空気感まで忠実に描いています。社会主義国の街並みとか建物の内装はどこか無機質な印象を受けますが、そのおかげで監視社会の閉塞感や圧迫感がリアルに感じられます。

芸術家と検閲

何よりこの映画が衝撃的なのは、いかに当時の東ドイツ、社会主義国の芸術家たちが表現の自由を渇望していたか、いかに検閲というものが芸術家たちの命を奪ったか、ということです。常に生活を監視され、生きがいを奪われる恐怖の中で生きる東ドイツの人々にとって、「表現の自由」は手の届かない夢でした。それでもドライマンとクリスタは作品を作ることを諦めません。芸術家として表現することを諦めるということは死を意味するからです。

この問題は今の私達とも無関係ではありません。今また違った形で表現の自由が脅かされています。この東ドイツとは違った形の検閲がインターネット上で、SNS上で行われています。人類が長い歴史をかけて獲得した表現の自由を、私達はどのようにすれば守れるのか、この映画をきっかけに考え直すことが大事だと思います。

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